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【働き方改革 好事例2】(株)山崎文栄堂

会社概要

代表取締役社長 山崎 登
所 在 地 〒153-0042 東京都目黒区青葉台3丁目17-13 鉄信ビル TEL 03-5464-7110
ホームページアドレス https://bun-eidou.co.jp/

●設立 昭和49年4月1日 ●資本金 1,000万円 ●従業員数 36名(2020年8月現在) ●年商 58億2,000万円(2020年8月現在)
●事業内容 オフィス用品通販アスクル(東京西エリアトップ販売店) ソロエルアリーナ事業/名刺デザインサポート事業/溶解処 理サポート事業/オフィス環境サポート事業 ●販売先総数 約45,000社

他企業と共に学びつつ交流し、仕事と人生を繁栄させる働き方

倒産の危機を乗り越えて、 『アスクル』の事業に参入

当社は昨年、お蔭様で創業100周年を迎えさせていただきました。私の祖父が鹿児島から東京へ出てきて、「これからは文房具の時代だ」と、文房具や雑貨を入れた風呂敷包みを背負って行商したのが始まりです。その後、渋谷で“学校前の文房具屋さん”というような業態になり、今から25年ほど前まで続きました。

近年、国内の文房具店が減っていき、3万店あったものが5千店以下になっていますが、最初にだめになったのが当社です。25年前、売上げがどんどん落ち、4年連続で赤字、2時間後の手形が落ちないという事態になりました。当時、26歳で東京に戻ってきた私の最初の仕事は、渋谷中の銀行に頭を下げて回ること。軒並み断られ、最後に訪れた信用金庫さんが「あなたの熱意に免じて貸しましょう」と300万円を貸してくれて、首の皮一枚つながりました。

そんな1995年に、オフィス用品デリバリーサービス『アスクル』の事業に参入しました。オフィス用品通販の走りでしたし、企業が企業に商品やサービスを提供するBtoBもなかったので、「そんなことやってもうまくいかない」と、社内でも大反対でした。しかし、それをやらないと生き残れないという瀬戸際だったのです。

それからというもの、会社を潰さないため、ひたすら新規開拓に奔走し、休みも返上しての長時間労働で、まさに超ブラック企業となりました。当時、社員は10名ちょっとで、直接訪問と電話、DMや新聞折込みなど多様な媒体を使って営業活動を展開し、どんどん業績を伸ばしていきました。新規開拓訪問を毎日毎日し続けた結果、『アスクル』の新規開拓日本一にもなりました。ところが、表彰された時、社員の誰にも笑顔がありませんでした。普通なら、「やったあ!」と喜ぶはずなのに、「明日からまた真っ暗闇のレースが始まる」というトンネルの中みたいな雰囲気。「もう無理だ」 という疲弊感と、百何十時間の残業時間、80%の離職率が生まれ、身にしみてわかったのは、「この先に未来はない」ということでした。

大きな転機を与えてくれた 「ヒーローズクラブ」との出会い

2011年、当社の歴史に大きな転換点が刻まれます。「ワールドユーアカデミー/ヒーローズクラブ」とのご縁を頂いたのです。ワールドユーアカデミーは、ビジョン経営などを学ぶための、いわゆるセミナー会社でもありますが、中小企業が協力して助け合うことに力点を置いています。「ヒーローズクラブ」は、そのワールドユーアカデミーから生まれた組織で、企業の垣根を超えてさまざまな活動を行っています。

その一つが、幹部も社員も一緒になっての山登り。雨が降ったり強風が吹いたりで、山登りは思い通りにいかないことが多いため、協力して前に進んでいかねばなりません。「荷物、持とうか」「歩 くペースを揃えよう」とか言いながら、助け合って頂上にたどり着いたら、見たことのない景色が広がっている。楽しいし、すごく達成感があります。なぜ、これを仕事でできないのかと思いました。山では助け合えるのに、仕事では「お前、何をやっているのか」「成績、どうなっているんだ」 となります。

いわば、社長は頂上であぐらをかいて雨や風に文句を言い、社員に「お前たち、早く 登って来い!」と言っていただけ。うまくいかなかったのは「これだ!」と思いました。

そうして、従来のピラミッド型経営から変わろ うとしました。ピラミッド型では、「社長の言う ことは絶対だ」とか、「トップダウンがいい」「ボ トムアップがいい」とか言いますが、山登りでは どれも関係なし。チームとして行動することが大 事なのです。では、どうやって具体的に実践していくのか。

以前は、行動計画や実施計画、利益計画などを重視していましたが、相互のコミュニケーションや場づくりに注力しました。社内では、集中して仕事をする場所とリラックスする場所を分け、屋久島の鳥の声が流れる「未来のことを考えるための場所」もあります。中小企業は今の数字を上げることばかりに目を向けず、もっと、未来のための時間をとることが必要だと思ったからです。

また、当社では会議というものがほぼありません。緊張して何も言えなくなる人がいるし、「何 か意見を言えよ!」と上司は怒鳴るし、そこで何かが生まれるということがほとんどないからです。会議室の中で会議をしているのは、日本だけです。本当に新たなものが生み出されるのは自然の中やいろいろな場所だったりするので、私たちは未来のためのスペースを使ったり、屋久島へ行って話し合ったりしています。上下関係がなく、 いつもワイワイと活気のある職場になっていると 思います。私の席も、社長の席には見えません。 チームの一員として仕事をしているからです。

うまくいっていたのに、いつの間にかなくなってしまった会社とは、前の成功パターンにしがみつき、そのまま突き進んでしまった会社なのではないかと思います。以前のやり方を推し進めていたなら、当社も崩壊していたでしょう。
「ヒーローズクラブ」に関わっているのは、業種を超えた数十社ですが、みんな業績が上がっています。昔は、いかに他社と競争し、打ち勝つかということが重視されましたが、これからの日本、中小企業が力を合わせることが大事。1社ではできない奇跡が確かに生まれています。「ヒーローズクラブ」から得たことが会社のあり方を変えたといっても過言ではなく、みんながワイワイ楽しく仕事をしているのは何より嬉しいことです。

人に寄り添う仕事が、働き方改革を促す

企業にとって今後大切なのは、新たなチャレンジと、人に寄り添うことです。そこで、お客様のところへお伺いして、「一緒に会社を良くしましょう」と、経営や営業、経理のお手伝いをする『お役立ちサービス』を始め、これがメインのお仕事になってきました。一方、『アスクル』の新規開拓などの営業はやめました。新規開拓をすると値引き競争に巻き込まれる、だからやらないのです。実は、これが一番大きなシフトで、ビジョンのため、志のために仕事をしようと、3年ほど前に舵を切りました。新規開拓をやめたのに、この一年間でお客様は2200社増え続けています。全部で約4万5千社となり、年商は58億円を超えました。値段で選ばれるのでなく、人の魅力で選ばれて、
お客様から声のかかる会社に変わっていこうという取り組みの成果です。

昨年の緊急事態宣言の時には、「ヒーローズク ラブ」の面々が集まって、「今だからできる取り組 みは何だろう?」と知恵を寄せ合い、教育・情報 配信・社会貢献という3つの取り組みを掲げました。これらは、働き方改革にもつながると思います。

教育についていえば、緊急事態宣言で時間がで きたから一緒に勉強しようと、適切なケアをしながら、お互いの会社に行って学んだり、山に登ったり、和太鼓をしたりしました。また、情報配信では、SNSやYouTubeなどについて教えに行く こともしました。例えば、銀座のすし屋さんが情報配信するための技術やカメラの撮り方などを教 えに行ったら、宅配サービスの増加につながり、すごく喜ばれました。昨年5月は売上げゼロだった旅行会社に情報配信のサポートをさせて頂いたら、現在、全ツアーがキャンセル待ちという状況です。明るく、元気で、機動力があるというのが当社の強みなので、社会貢献では、呼ばれてお手伝いをしたり、マスクや消毒液をお送りしたりしました。

昨年から続く大変な時期こそ、企業は、前向きに、柔軟に対応していくことが大事です。大企業や余裕のある中小企業は、今までの内部留保で何とかされていますが、今こそ商人(あきんど)が立ち上がらなければならないのに、おとなしくしていてどうするのか、自分たちだけ生き残ろうというやり方でいいのかと思います。売ろうとすればするほど売れずにお客様との関係が薄くなる、でも、お役立ちしようとすれば、お客様に喜ばれて売上げに結びつく。経験から得た教訓です。

もともと日本は「和の国」で、競争よりも、助け合ってお互いの良いところを伸ばし、「みんなで良くなろう」というほうがピタッと来るのでは ないでしょうか。私は海外の企業にもいろいろ学びましたが、「日本を取り戻す」ことが大事だという結論に達しました。日本古来の助け合いの精神や、自然との共生や瞑想など、海外企業がそういうものに注目しているのに、日本の企業が重視しないのは不思議なことです。ですから、以前は声を張り上げて朝礼をしていましたが、今は毎朝みんなで瞑想と掃除をします。人材教育も、上から構えて行うよりも、寺子屋みたいな感じで、数人か、1対1でやりとりするほうが伝わるのではないかと思います。

以前、ひと月に百何十時間もあった残業時間は 10時間以下になり、休みもきちんととってもらい、「50%が貢献、50%が学び、100%楽しい会社」をめざしています。お客様に喜ばれることが多くなり、クレームや解約はなくなっていきました。貢献する仕事というのは、それがそのまま生産性につながります。今は、お客様に喜ばれる価値ある仕事だけをして、あとは学びの時間。和太鼓やダンス、屋久島に行くのも就業時間内です。

社員だけでなく、社員の家族やお客様も一緒に、それをやりたい人が集まってやっています。人生も仕事も楽しんで、両方を繁栄させましょうというのが、当社の働き方改革。働き方改革というと、オフィスをどうする、リモートをどうするという話になりがちですが、それだけでは根本は何も変わりません。人が魅力的になるにはどうしたらよいか、なのです。

「ヒーローズクラブ」では「地球で学ぶ、会社 が魂の学校になる日プロジェクト」を提唱していますが、当社も会社というより、学校のような感じになっています。学校がその機能を果たせなく なっている今、中小企業の、人を育てる使命を強 く感じています。経営者が「みんなで育てよう」 という姿勢で、それぞれに合った役割を与えるこ とができれば、一人ひとりが輝き始めるはずです。

2020年は、「会社をワンチームにする」という目標を掲げました「幸せな社会を創り拡げる私たちの日本を良くしたい」という気持ちを持った人たちとチームで仕事をしていくというのが、当社の絶対条件。コロナ禍でも、これがブレることはありません。今、大企業はリストラで大変ですし、有効求人倍率はどっと下がっています。だからこそ、ビジョンに共感できる人とチームを作って仕事をすることが、私にはかけがえのないものとして実感できるのです。

(インタビュー取材・文責在編集部)

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